「タイピングスキル向上で子ども達の学びが変わる」 横浜市立茅ケ崎台小学校 今村俊輔先生 ~1人1台端末時代のICT活用インタビューVol.04~
全ての児童が3タイプ/秒、苦手でも2タイプ/秒を目指して
―昨年度5年生の児童に対し、どのようにタイピング指導に取り組まれたのか教えてください。
今村先生:
タイピング練習ソフトで週3回、15分ほどのスキルタイムを利用したり、授業を10分早めに終われたら、その時間を使うなどして練習を行っていました。そのソフトは正確に打つと星3つ、正確じゃないと星2つと評価がつくので、まずは正しく打つことを目指して星3つにしようねと話しました。なおかつ、そのソフトが1秒間で3タイプ以上でクリアとなるので、クリアを目指して頑張っていました。このような練習を3~4カ月に渡り行いました。
―タイピング速度の指標を3タイプ/秒にしたのはどのような経緯があったのでしょうか。
今村先生:
自分で本気でタイピングをやってみたら6タイプ/秒だったのですが、それを踏まえて3タイプ/秒にしてみました。実際に3タイプ/秒は結構速いので、2タイプ/秒くらいがちょうどよいのではと感じています。
2タイプ/秒であれば、3カ月ぐらいでみんなできていたと思います。
苦手な子も練習を継続して、スキル向上を目指すことが大切
―タイピングに苦手意識をもつ子達にはどのように声かけをしましたか?
今村先生:
毎日5人ずつテストを行っていたのですが、テストの結果を表に記録しました。結果を記録することで、例えば、前日が2.35タイプ/秒だったのが、2.34タイプ/秒になったとします。そんな時は「0.01上がったね。」などと声かけをしました。また、星2つだった児童が3つになれば、そこも褒めるなど、個人の伸びた成果を褒めるようにしていました。 最後まで残ってしまった子達に対しては、目標値を2.5タイプ/秒にするなどと目標を下げました。
―子ども達のモチベーションをどのようにキープしたのでしょうか。
今村先生:
半年間、週3回・10分くらいの練習を続けてたのですが、やはり期間が長いので飽きると思うんです。でも、目に見えて自分の速度が上がってくるので、モチベーションが上がったと思います。途中、中だるみで嫌になることもあったと思うのですが、繰り返していれば上がっていきます。
苦手なところがある時は練習モードで苦手なところを練習する。そうすることで苦手を得意にしていけば、モチベーションは保てると思います。
―苦手な子はどれくらいでクリアできましたか?
今村先生:
3タイプ/秒を全員がクリアするのに半年かかりました。ピアノなど習っていて得意な子は1カ月~2カ月でクリアできていました。 最初は週5ぐらいのペースでやっていましたが、それを週4→週3と減らしていき、最後は週2になっていましたぐらいのペースでタイピング練習を行っていました。 6年生になった時にタイピングチェックをしたら、2/3が3タイプ/秒をクリアしていしまた。しかし、遅い子は0.8タイプ/秒という子もいましたがその子達にも「苦手なところを練習すれば速くなるよ」と励ましていました。 苦手な子達も継続して練習することで底上げしていくことが大切だと思います。
タイピングが上達することで、学びの幅を広げることができる
―先生がタイピング指導を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
今村先生:
タイピングが遅いと検索もスムーズにできないし、文章も速く打つことができないので、必要性を感じました。
―タイピング指導を取りいれたことで目に見えた変化はありましたか?
今村先生:
タイピングの速度が上がると、鉛筆で書くよりも文字は早く打てます。そうすることで活動の幅を広げることができます。
ただし、中途半端な速度の時は手書きとタイピングを併用しています。現在でも作文の時などに手書きも認めています。
―別に手書きでもいいよという方針の先生もいらっしゃいます。それについてはどう思いますか。
今村先生:
ホワイトボードに書いたものを共有するなどもよいのですが、データ共有などはタイピングしないとできないので、タイピングができることによって、小学生でも学習の幅が広がりますよね。検索するのも早くできるようになります。
―苦手で手書きを選ぶのか、打てるけど手書きの良さを知っていて手書きを選ぶのかで違うと思うのですが。苦手で手書きにしてしまうのは、子どもにとってあまりよくないのかなと思いますが、いかがですか。
今村先生:
おっしゃるとおりですね。
―タイピングができないとタブレットの機能をフルに活用することができない。ということは子どもの可能性に影響が出てしまいますね。
今村先生:
おっしゃるとおり、タイピングはマストだと思います。
タイピングができるとタブレットの利用時間が増えて、自分の表現に使ったり、プレゼンを作ったり、動画を撮ったり、学習の幅が色々と広がります。反対に、タイピングができないとタブレットの使用時間が減り、学習の幅が狭くなってしまいます。
学校全体で取り組み、底上げしていくことが大切
―今村先生は早い時期からタイピングの必要性を感じていたと思うのですが、他の先生方をどのように巻き込んでいったのでしょうか。
今村先生:
コロナの影響で休校だった時に課題を最初は紙で出していたのですが、それだと準備も大変ですし、丸つけもできない。そんな時、若い先生を中心にAI型教材『キュビナ』を利用して配信してはどうだろうという意見が出て、そうすることにしました。でも、キュビナで課題をやるためにはタイピングスキルも必要ということで、タイピング練習ソフトも子ども達に紹介しました。
―なぜ全校でタイピングスキル調査をやったのですか?
今村先生:
調査結果を見ることで先生達がタイピングの速度が遅いことにデータを見て気づくことができます。タイピングを使って授業をするとなった時にデータを見て、「この入力速度だとできないですよね。底上げする必要がありますね」などとアドバイスすることができます。調査の結果は伝える時の根拠になります。
―例えば、4月から毎日5分、10分でタイピングの練習をスタートして、夏ぐらいには底上げができて、学習の幅が広がるとよいですね。
今村先生:
卒業文集も打っていたと思うのですが、データで提出できる機能があります。データで提出するとなると、タイピングが絶対に必要になってきます。もしも、今後卒業文集をデータで提出することになれぱ、6年生でタイピングが遅いままだと苦労します。タイピングをやらなければいけないきっかけ、意識づけになるのではないかと思います。
【全国統一タイピングスキル調】
調査内容
【全国統一タイピングスキル調査 結果レポート】
1分間の入力文字数 入力正タイプ率
タイピングのメリット、手書きのメリットを理解して活用するのがベスト
―タイピングスキルが向上して、実際によかったという具体例などあれば教えてください。
今村先生:
児童に作文を読んでもらって他の児童にタブレットを使って1~2分で100字ほどのコメントを書いてもらうこともあります。
もしこの時、5分ぐらい時間を使うのであれば、タイピングが速くなくてもよいのかもしれませんが、1~2分だとある程度の速度が求められます。
今までだと、作文を読んだ後に感想を答えてもらう場合、挙手してもらって3、4人に感想を述べてもらっていました。ですが、タブレットで感想を書いてもらうことで、全員の感想を知ることができるのはタイピングの良さだと思います。
―タイピングスキルが向上すると、学びの場面でどう反映されるのか、他の先生方にわかりやすい基準を教えていただきたいと思います。
今村先生:
1タイプ/秒だと1分間に30文字、2分間で60文字。だとすると僕がやりたい授業には速さが不足しています。
2タイプ/秒だと1分間に60文字、2分間で120文字となり、これくらいの速度だと僕が思い描いている授業はできるかと思います。
―タイピングと手書きの使い分けについてはどのようにお考えですか。
今村先生:
前に本で読んだのですが、「iPadやPCは完璧主義者。ノートは書いたものはぐちゃぐちゃかもしれないけれど考えた軌跡が残る。」その違いはあるかもしれないですね。
紙とデジタルもどちらがよい、悪いではなく、ケースバイケースでメリットが大きい方を選べばよいと思います。
インタビューの様子